- トップ
- 理論的背景
- データの分析法
- データ提供者
- データダウンロード
- 可視化インターフェース
- ユーザマニュアル
- 参考文献
- 動作環境
- 更新履歴
- お問い合わせ
- 現代日本語自他対一覧表
「使役交替言語地図」とは
「使役交替言語地図」 (The World Atlas of Transitivity Pairs (WATP)) は、世界の言語の形態的関連のある有対動詞を収集した地理類型論的なデータベースです。形態的関連のある有対動詞は、使役交替に参与し、例えば、日本語の自動詞「開く」と他動詞「開ける」では、「ドアが開いた」、「太郎がドアを開けた」のようにペアとなって現れます。約80名の研究者から提供された約95言語のデータは、研究目的でダウンロードして利用することができます。
「使役交替言語地図」で何ができるか
「使役交替言語地図」は、地図およびチャートの2つのインターフェースを利用して、Haspelmath (1993) で提唱されている次の2つの観点から有対動詞の形式的な関係を可視化します。
(1) | 個々の動詞対の派生型の選好(意味と形式の類像性の可視化) |
(2) | 各言語の派生型の選好(各言語の「類型論的な特徴づけ(typological characterization)」の可視化) |
また、派生の方向の動機づけに関する Haspelmath (1993) の類像的な説明を検証することも可能です。
詳しく見る「使役交替言語地図」を引用するときは
「使役交替言語地図」を利用する場合は以下のように引用してください。
| |
各言語の使役交替動詞対データを利用する場合は以下のように引用してください。
| |
以下は一例です。
|
「使役交替言語地図」を作成したのは
国立国語研究所共同研究プロジェクト「述語構造の意味範疇の普遍性と多様性」(リーダー:プラシャント・パルデシ)では、2012年より、「使役交替言語地図」の構築を進めてきました。1次データとなる使役交替動詞対データは、40名以上の研究者から提供を受けました。また、使役交替動詞対データのデータベースの構築およびシステムの設計・開発は、Lago NLP(赤瀬川史朗)が担当しています。
理論的背景
日本語の「開く」と「開ける」、ヒンディー・ウルドゥー語の 「khul-naa (開く)」と「khol-naa (開ける)」のように、形態的に関連づけられる非使役動詞と使役動詞の動詞対は、世界の多くの言語で観察されます。言語類型論の分野では、Nedjalkov (1969) の先駆的な研究を皮切りに、このような有対自他動詞間の形式的関係や派生の方向、派生の有無についての研究が活発に行われてきました(Kholodovich (ed. 1969), Nedjalkov & Silnitsky (1973), Masica (1976), Jacobsen (1985), Croft (1990), Haspelmath (1993), Hook (1996), Kageyama (2000), Nichols et al. (2004), Comrie (2006), Narrog (2007), Haspelmath et al. (2014) など)。
地理類型論における有対自他動詞間の派生方向の先駆的研究である Masica (1976) では、有対自他動詞を使役化型(自動詞から他動詞への他動化型派生)と非使役化型(他動詞から自動詞への自動化型派生)に分類し、言語ごとの型を地図上に表し、分布地域の境界線を示しています。また、Haspelmath (1993) では、有対自他動詞間の派生の方向の動機づけについて、Jacobsen (1985) や Croft (1990) の研究からヒントを得て、認知的に無標な出来事は言語形式上においても無標であり、認知的に有標な出来事は言語形式上においても有標であると主張し、意味と形式の間の類像的な動機づけを支持しています。このような先行研究から着想を得て、国立国語研究所では「使役交替言語地図」の構築を進めています。
データの分析法
使役交替動詞対データの作成にあたっては、Haspelmath (1993) で提案された31の動詞対と、以下の表に示す5つの形式的関係のタイプに基づいて分析しています。
派生の方向の有無 | 派生型 | 自他動詞対間の形式的な関係 |
派生の方向あり | A (Anticausative) | 他動詞が無標→自動詞が有標:自動化・反使役化型 |
C (Causative) | 自動詞が無標→他動詞が有標:他動化・使役化型 | |
派生の方向なし | E (Equipollent) | 自他動詞ともに有標:両極型 |
L (Labile) | 自他動詞ともに同じ形式:自他同形型 | |
S (Suppletive) | 自他動詞ともに無標・異形:補充型 |
Haspelmath (1993) の付録に挙がっている21言語のデータは、上記の5分類によって分析されていますが、なかには、上記のいずれの派生型にも分類できないデータもわずかながら存在します。他動性プロジェクトでは、各言語の専門家であるプロジェクトメンバーが、担当言語の有対動詞の形式的な関係を分析し、上記の5分類では分析できないペアを「O(Others:その他)」として分類しています。また、同じ言語でも研究者によって分析が異なる場合があることから、Haspelmath (1993) で採取された言語と重複する言語についてもデータを採取しています。
「使役交替言語地図」に収録されている使役交替動詞対データは以下の3つです。各言語のデータは、データダウンロードからダウンロードできます。
(a) | 他動性プロジェクトの共同研究者から提供を受けたデータ |
(b) | Martin Haspelmath氏から提供を受けた Haspelmath (1993)の付録に挙がっている21言語のデータ |
(c) | Bernard Comrie氏から提供を受けたスウェーデン語、ツェズ語、マルタ語のデータ |
データ提供者(50音順)
可視化インターフェース
「使役交替言語地図」では、地図およびチャートを利用して、Haspelmath (1993) で提唱されている次の2つの観点から有対動詞の形式的な関係を可視化します。
(1) | 個別動詞対の派生型の選好(意味と形式の類像性の可視化) |
(2) | 個別言語の派生型の選好(各言語の「類型論的な特徴づけ(typological characterization)」の可視化) |
地図インターフェースは、個別動詞対の派生型の選好、つまり、意味と形式の類像性の可視化を提供します。このインターフェースでは、Haspelmath (1993: 104) の Table 4 の有対動詞の順序に基づいて31の動詞対を画面上部に並べています。任意の動詞対をクリックすると、それぞれの言語の形式的な関係のタイプを地図上に表示します。また、地図の左上には、すべての言語のタイプの割合が円グラフで表示されます。Haspelmath の31の有対動詞のスケールでは、左側にあるペアほど無標な出来事は自発的に起こる可能性が高いものが、反対に、右側にあるペアほど外部の力が加わることによって無標な出来事が起こる可能性が高いものが配置されています。また、中間にくるペアは不確定型になりやすいと言えます。そのため、左側にくるペアほど使役化型になる可能性が高く、反対に、右側にくるペアほど反使役化型になる可能性が高くなると予想されます。さらに、有対動詞間の形式的な関係を地図を利用して可視化することで、地理類型論的なパターンを描き出すことができます。
チャートインターフェースは、個別言語の派生型の選好、すなわち、各言語の類型論的な特徴づけ (typological characterization) を可視化しています。Haspelmath (1993) の31の動詞対は英語で示され、調査対象となる言語では複数の動詞対として翻訳される場合があり、動詞対によっては派生の方向が逆転するケースも出てきます。この原因としては、これらの動詞の多くが多義語である点や、文脈のない動詞単独で提示されている点が挙げられます。本システムでは、複数の対訳ペアを可視化する手段として、タイルチャートとバブルチャートの2つの表示形式を提供しています。バブルチャートでは、最大3つの対訳ペアをそれぞれの円で表示します。タイルチャートでは、各派生型の表示色の混合色として表示しています。このインターフェースでは、派生型のタイプによる並べ替えができるので、各言語における優勢な派生型を視覚的に確認することができます。
Haspelmath (1993:106、表4) では、21言語における31の動詞対をA (脱使役化交替) とC (使役化交替) の比 (A÷C) の昇順に並べ、このスケールの上位に来る動詞対が使役化交替になりやすく、逆に、下位に来るもののほうが脱使役化交替になりやすいと主張している。スロープグラフインターフェースは、このHaspelmath (1993) が対象としている21言語と、WATPで収集した61言語 (Haspelmath 1993 と一部言語の重複を含む) の31の動詞対のスケール上の順位をスロープグラフと呼ばれる可視化手法を用いて比較し、当該スケールの有効性を検証するためのツールです。なお、Haslelmath (1993) の表4には、タイプ数のカウントと比の計算に一部誤りがありましたので、Haspelmath氏のご了承をいただいた上で修正しています。
比較インターフェースは、のべ81言語 (Haspelmath (1993) の21言語とWATPで収集した60言語の動詞対のデータ) から任意の2言語を選んで、左右に動詞対のデータを並べて、両者の違いを比較することができます。
ユーザマニュアル
以下のリンクをクリックすると、別ウィンドウで開きます
使役交替言語地図 ユーザマニュアル (PDFファイル)
参考文献
動作環境
ブラウザはFirefox,Chrome,Safari,Edgeに対応しています。 |
更新履歴
2014/6/6 | 1.00版 公開(48言語) |
2015/4/29 | 1.10版 公開(12言語を追加、計60言語) |
2016/6/23 | 1.30版 公開(1言語追加、Haspelmath 1993の21言語を追加,スロープグラフインターフェース・比較インターフェースを追加) |
2020/11/3 | 1.40版 公開(28言語/方言追加、インターフェース改修) |
お問い合わせ
ご感想、ご意見がございましたら、以下のメールアドレスまでお寄せください。